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とじょう
途上
谷崎 潤一郎
「改造」1920(大正9)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,060 字 · 32 页
それから、あたかも二人は日本橋の橋手前まで来ていたのだが、探偵は村井銀行の先を右へ曲って、中央郵便局の方角へ歩き出した。無論湯河も彼に喰着いて行かなければならなかった。
「この二度目の感冒にも、やはり夫の細工がありました」
と、探偵は続けた。
「その時分に、細君の実家の子供が激烈な感冒に罹って神田のS病院へ入院することになりました。すると夫は頼まれもしないのに細君をその子供の付添人にさせたのです。それはこう云う理窟からでした、―――『今度の風は移り易いからめったな者を付き添わせることはできない。私の家内はこの間感冒をやったばかりで免疫になっているから、付添人には最も適当だ』―――そう云ったので、細君もなるほどと思って子供の看護をしているうちに、再び感冒を背負い込んだのです。そうして細君の肺炎はかなり重態でした。幾度も危険のことがありました。今度こそ夫の計略は十二分に効を奏しかかったのです。夫は彼女の枕許で彼女が夫の不注意からこう云う大患になったことを詫りましたが、細君は夫を恨もうともせず、何処までも生前の愛情を感謝しつつ静かに死んでいきそうにみえました。