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とじょう
途上
谷崎 潤一郎
「改造」1920(大正9)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,060 字 · 32 页
―――偶然にも、其処にはそれだけの危険の種子が準備されていました。ここにおいて夫は、その偶然を必然に導くにはほんの僅かの手数を加えればいいと云うことに気が付きました。それは即ち瓦斯の栓をもっと緩くしておくことです。彼は或る日、細君が昼寝をしている時にこっそりとその栓へ油を差して其処を滑かにしておきました。彼のこの行動は、極めて秘密の裡に行われた筈だったのですが、不幸にして彼は自分が知らない間にそれを人に見られていたのです。―――見たのはその時分彼の家に使われていた女中でした。この女中は、細君が嫁に来た時に細君の里から付いて来た者で、非常に細君思いの、気転の利く女だったのです。まあそんなことはどうでもよござんすがね、―――」
探偵と湯河とは中央郵便局の前から兜橋を渡り、鎧橋を渡った。二人はいつの間にか水天宮前の電車通りを歩いていたのである。
「―――で、今度も夫は七分通り成功して、残りの三分で失敗しました。細君は危く瓦斯のために窒息しかかったのですが、大事に至らないうちに眼を覚まして、夜中に大騒ぎになったのです。どうして瓦斯が洩れたのか、原因は間もなく分りましたけれど、それは細君自身の不注意と云うことになったのです。