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とじょう

途上

谷崎 潤一郎

「改造」1920(大正9)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,060 字 · 32 页

青空文庫

「どうでしょう、お手間は取らせない積りですが少し付き合って戴けますまいか。私の方は、或る個人の身元に就いて立ち入ったことをお伺いしたいのですから、却って会社でお目に懸るよりも往来の方が都合がいいのです」

「そうですか、じゃとにかく御一緒に其処まで行きましょう」

湯河は仕方なしに紳士と並んで又新橋の方へ歩き出した。紳士の云うところにも理窟はあるし、それに、明日になって探偵の名刺を持って家へ尋ねて来られるのも迷惑だと云うことに、気が付いたからである。

歩き出すとすぐに、紳士―――探偵はポッケットから葉巻を出して吸い始めた。が、ものの一町も行く間、彼はそうして葉巻を吸っているばかりだった。湯河が馬鹿にされたような気持でイライラして来たことは云うまでもない。

「で、その御用件と云うのを伺いましょう。僕の方の社員の身元とおっしゃると誰のことでしょうか。僕で分ることなら何でもお答えする積りですが、―――」

「無論あなたならお分りになるだろうと思います」

紳士はまた二、三分黙って葉巻を吸った。

「多分何でしょうな、その男が結婚するとでも云うので身元をお調べになるのでしょうな」