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とじょうのはんにん

途上の犯人

浜尾 四郎

「犯罪科学」1930(昭和5)年11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,477 字 · 38 页

青空文庫

「若し? 若し……そうです、若しここに一人でもあなたの為に殺人者になったという人間があるという事を、私が立証したらあなたはどうします?」

「無論、あなたが、そう主張なさるなら信じないわけにはいかないでしょう。僕はそんな事があろうとは思いませんが」

「たしかにあります。一人、確かに!」

「確かに? 君はほんとうにそう云うのか」

「無論です。たしかに少なくも一人私はそういう人のある事を知って居ます。先生、私はたしかにそういう一人を知って居ますよ」

こうなっては最早のっぴきならない。

「君は確かにあると断言するのだね。よし。それでは君はその人の名をあげて僕に知らせる責任がある。それをしないでただそんなに頑強に僕を批難しても何もならん」

私には、この世の中にそんな人間があるとは信じられず、又若し(しかり、正に千万度も「若し」だ!)そんな殺人者があったとしたところで、まさかその人間の名を彼が私に云い得る筈はない、と思ったので、ぴっしゃりと、叩きつけるように云ってやったのである。

此の一言ははたして効果を現わした。

猛虎のようにつめよった彼はこの時、正にたじたじとなったらしい。