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ゆけるマクシム・ゴーリキイ
逝けるマクシム・ゴーリキイ
宮本 百合子
「婦人公論」1936(昭和11)年8月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,396 字 · 17 页
にめぐりあったのである。ゴーリキイにとっての上役、料理番のスムールイという大力男が行李の中に何冊かの本をもっていた。彼はゴーリキイに目をかけて、繰返し、繰返し云った。
「本を読みな。わからなかったら七度読みな、七度でわからなかったら十二遍読むんだ!」
そして、自分の経て来た無駄な生涯を顧みて、肥った獣のように呻き、深い物思いに沈んで荒っぽく怒鳴るのであった。
「そうだ! お前には智慧があるんだ。こんなところは出て暮せ!」
冬が来て、ヴォルガ河が凍り、汽船の航行がとまると、ゴーリキイは、又製図工のところへ戻って働いた。働きは依然としてひどいものではあったが、彼には本を読むという無限の慰めが出来た。プーシュキン、ディケンズ、スコットなどの小説をゴーリキイはどんな熱中でもって読んだことであろう。彼は、本を読んでいるところを主人に見つかってひっぱたかれないように燈火を毛布でかくして読み、机の下にもぐり込んで読み、誰一人いない風呂場の月明りで読んだ。十三、四歳の彼は「屡々読みながら泣いた。それ程にこれらの人々のことはうまく話されていたし、これらの人々はそれ程愛らしく親しかった。