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とんそう
遁走
葛西 善蔵
「新小説」1918(大正7)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,581 字 · 23 页
そして「やっぱし彼はえらい男だ!」と、思わずにはいられなかったのだ。
私は平生から用意してあるモルヒネの頓服を飲んで、朝も昼も何も喰べずに寝ていた。何という厭な、苦しい病気だろう! 晩になってようよう発作のおさまったところで、私は少しばかりの粥を喰べた。梅雨前の雨が、同じ調子で、降り続いていた。
私は起きて、押入れの中から、私の書いたものの載っている古雑誌を引張りだして、私の分を切抜いて、妻が残して行った針と木綿糸とで、一つ一つ綴り始めた。皆な集めても百頁にも足りないのだ。これが私の、この六七年間の哀れな所得なのだ。その間に私は幾度、都会から郷里へ、郷里から都会へと、こうした惨めな気持で遁走し廻ったことだろう……
私はまったく、粉砕された気持であった。私にも笹川の活きた生活ということの意味が、やや解りかけた気がする。とにかく彼は、つねに緊張した活きた気持に活きるということの歓びを知ってる人間だ。そしてそのために、あるいはある場合には多少のやりすぎがあるかもしれない。しかしそれでもまだ自分のような生きながらの亡者と較べて、どんなに立派で幸福な生活であるか!