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かさんかマンガンすいのゆめ

過酸化マンガン水の夢

谷崎 潤一郎

「中央公論 七十周年記念十一月特大号(第七十年第十一号)」1955(昭和30)年11月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,458 字 · 25 页

青空文庫

奇怪なことがそれから次々に起って来る。

クリスチナは故意に己れの部屋の鍵をプールに落し、学童に命じて水中を探らせる。水に潜った学童は鍵を手にして出て来るが、その鍵はクリスチナの鍵ではなく、ミシェルの部屋の鍵である。クリスチナは門番の男にプールの水を一滴も残らず乾させて見るが、屍骸はいつの間に何処へ行ったのか影も形もない。二三日すると洗濯屋から見覚えのある背廣服が届けられる。それはあの夜ミシェルが着ていた背廣である。教師と生徒が校舎の前に集って記念撮影をし、それを現像させて見ると、うしろの窓ガラスに校長の顔がぼんやり写っている。生徒の一人が、窓ガラスを破したのを校長さんに見付けられて叱られたと云って来る。深夜ミシェルらしい人の足音が聞えたり校長室でタイプライターを叩く音がしたりする。心臓の悪いクリスチナは日夜恐怖に苛まれて半病人になって行く。最後に、一夜彼女は浴室の浴槽にあの夜の通りの状態で水に漬かっているミシェルの幻影?―――を発見する。ミシェルが満身にびっしょり水をしたゝらしつゝ浴槽から立ち上る瞬間、キャーッと云う叫び声を放って急激に体を「く」の字に折り曲げ、横倒しに扉に靠れ眼を吊り上げてクリスチナが悶絶する。