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かさんかマンガンすいのゆめ

過酸化マンガン水の夢

谷崎 潤一郎

「中央公論 七十周年記念十一月特大号(第七十年第十一号)」1955(昭和30)年11月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,458 字 · 25 页

青空文庫

冷房はしてあるけれども十分には利かぬようにて、場内に這入った瞬間ちょっとヒヤリとしたゞけで席につくと間もなく蒸し暑さを感じ絶えず扇を使う。第一景マンボくらべより第二十景グランフィナーレまで時間にして二時間たっぷり数々のヌードの艶冶なる姿態の千変萬様が乱雑に記憶に存するのみで、第何景に何と云う娘がどんな役を演じたのか何も頭に残っていない。こう云うものは見たら直ぐに忘れてしまって何も残らない方がよいのであろう。家人は途中から居眠りをし出し「やっぱり『裸の女神』の方がよかったわ、フランスのヌードには敵わないわね」と小声で不平らしく云い「それでも踊り児は綺麗だけれど男優が案外大勢出るのが面白くないわ」と云う。これは予も同感にて今回の出し物は特に男のする役が多過ぎるように思う。美津子が推賞のジプシーローズはこゝのプリマドンナらしいけれどもやゝ老けていて体に脂肪があり過ぎるのと、混血児らしい容貌なのとが予の趣味に合わず、家人も珠子さんも此の点同感の由なり。春川ますみと云う娘に予は最も魅せられたり。(このこと家人には語らず心中ひとり左様に思いしのみ)他の場面は皆忘れ去ったが第十六景に「裏窓」