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どうけやく
道化役
豊島 与志雄
「中央公論」1934(昭和9)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,093 字 · 42 页
そういう私を昂然と見下すのが、彼女には嬉しかったらしい。この頃芸者遊びをするかと尋ねて、彼女は笑った。友人にはどんな人がいるかと尋ねて、親友にはよい人を選ばなければいけないと忠告した。私が会社の不平を云うと、現在の職業をいつでも投出すだけの勇気のある人こそ、ほんとにその職務を立派にやってゆける人だと説いた。そして彼女は世間話のような調子で、父になにか相談されたそうだが、どれほどの金があったらすむのかときいて、私が素直に、二三千円でいいだろうと答えると、それだけなのと軽蔑したように聞き流した。また彼女は私を音楽会や芝居に誘ったが、私はもうそんなところへは行きたくない気持だった。彼女は蓄音機とレコードを持ってきてやると云ったが、それは空言に終った。それからまた、頭の中で考えてる小説の筋などを話して、私の批評を求めたが、私の意見などは実はどうでもよく、ただ話してきかせるという調子だった。然し私から見れば、その小説なんか甘いつまらないものばかりだった。そして私はひそかに、彼女の醜い耳を意識してやるのだった。
或る時、彼女は風呂敷包みを開いて、大きな封筒を取出し、それを私の前に差出した。