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どうけやく

道化役

豊島 与志雄

「中央公論」1934(昭和9)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,093 字 · 42 页

青空文庫

私は彼女の手紙の文句を思い浮べながら、そして胸の中の欝積を新たにしながら、二十間ばかり間をおいてつけていった。十字街にさしかかった時、彼女はストップに会って、十人ばかりの人中に立止った。私は歩き続けて彼女のそばに出た。何か光ったような感じだった。彼女の鋭い視線を正面に受けて、私は丁寧にお辞儀をした。どちらへ、と私はすまして尋ねた。一寸買物に、と彼女は答えて、なぜか顔を赤らめた。私は威圧的に云った。

「お茶でものみませんか。」

それが、安心したような笑顔で受け容れられたので、私は気持が挫けた。少し歩いて、千疋屋の二階に落付いて、不純なものよりもと彼女が笑って、メロンと紅茶とをあつらえるまで、私はただ彼女のお伴みたいに振舞ってしまった。そして卓子の上と彼女の帯の薬玉模様とに、視線を往き来さしていた。

「私の気持、分って下すって……。」と彼女は云っていた。「御返事もないので、ちょいと、心配してたわ。」

涙ぐんだり悲壮な顔付をしたりしたがる道化者が、自分のうちにぴくぴく動きだすのを、私は一生懸命に押えつけた。そして自分の気持を何か一口に云ってやりたかったが、言葉が見当らなかった。