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どうひょう

道標

豊島 与志雄

――近代説話――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,402 字 · 19 页

青空文庫

丁度、その場の空気を救うかのように、どんぶりの御飯が出て来ました。

木原宇一は、尾高のところへ行って言いました。

「三浦先生が至急私に逢いたいということですが、なにか外に、社の用はありませんか。」

「ああ三浦さんか。」尾高は卓上の紙幣から解放されたように眉根を開きました。「いずれまた連絡するが、宜しく言っといてくれたまい。」

木原は周囲の人々の思惑に顧慮することなく、ただ自分一人の思いに耽って、そこを出ました。そして進まぬ足でゆっくりと階段をおりて、玄開へ出ました。雪は薄く積ってるきりで、もう降りやんでいました。ちょっと佇んで外套の襟を立てていますと、いつしかそれが如何にも自然らしく、照子が追っついてきて肩を並べました。

「怒っていらっしゃるの。」と照子は尋ねました。

「なんにも怒ることなんかないじゃありませんか。」と木原は答えました。

それは本当のことでした。然し、彼は怒ってはいませんでしたが、満足でもありませんでした。

――手袋もしていない手を、大勢の前で、長い間山崎に任せておくとは、どういうことだろう。但し俺は嫉妬しているのではないぞ。――自分が倒したのでもないウイスキー一瓶を、しかも飲み残しの僅かなものを、弁償する責任があるとは、どういうことだろう。