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どうひょう

道標

豊島 与志雄

――近代説話――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,402 字 · 19 页

青空文庫

来客も自由に迎え入れられましたが、それは殆んどなく、たまたま森村照子が三浦行男からの使いでやって来ますと、むりに引留められました。――画家の三浦行男は、単行本の装幀や雑誌の表紙とカットなどのことで、会社と密接な関係がありまして、編輯部のこの新年茶会の案内を受けていましたが、用事が出来て出られないとかで、森村照子を使にして、ピーナツの特製缶詰五個を届けてきたのです。茶会だからピーナツの缶詰はまあ適当なところでしょうし、三浦行男としてはそれで一応の仁義をつくしたわけでしょうが、然し、文学者などに批評させれば、そこにはなにかセンスの不足が感ぜられるのでした。

木原宇一は眉をひそめました。そして彼は次にまた一層眉をひそめました。――照子は彼に囁いたのです。

「茶会がすんだらすぐに来て頂きたいと、三浦先生からのおことづけでした。御食事の用意もして待っているからと、仰言っていらっしゃいました。」

木原が黙っていますと、彼女は口早に囁きました。

「電話が通じなくて、困りましたのよ。いらっしゃいますわね。」

木原は機械的に頷きました。

三浦さんが至急逢いたがってるとすれば、それは多分、照子に関することであろうかと、木原は考えました。