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どうかんやま
道灌山
宮本 百合子
「婦人」1948(昭和23)年3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,015 字 · 16 页
田端の汽車は、いつも動いているから目をはなせないし、牧田の牛はのろりのろりと動くから、また面白くて、なかなかその竹垣からどかれなかった。
大きい方の弟が、牧場の土のところどころにある黒い堆積をさして、
「ねえ、あれ、牛のべたくそ?」
と大きな声できいた。
「そうですよ」
一緒に牛をみている女中が、のんびりした調子で答えた。
すると、下の弟が、
「べたくそみせて!」
と、のびあがった。
「あれ、べたくそさ」
権威をもって大きい方の弟が、牧場の土の上に、いくつもあるかたまりを指さしてみせた。
「ふーむ。べたくそ?」
「べたくそ、さ」
わたしは、べたくそに弟たちほど熱中を感じない。わたしには牛の匂いが気にいっているのだった。風の工合で、竹垣のところから、牛小舎の匂いがほんのりきけるときがあった。牛小舎の匂いは、すべっこくて、柔かくて、そして甘かった。におっていると、いいこころもちがした。牛小舎は、牧場のむこうにトタン屋根を光らせている。
子供たちがうっとりとなって、のびやかな動きかたをする牛を見ている間に、母は、よくひとりで祖父の墓まいりをすました。わたしはお墓はきらいだった。