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どうかんやま
道灌山
宮本 百合子
「婦人」1948(昭和23)年3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,015 字 · 16 页
あとからこのことは家庭内の悲劇となったのだが、母が道ちゃんとよんだその弟を西村という姓にすることを承知したきっかけは、鳩だった。
祖母と母とが、その日も南向きの茶の間でしきりに話していた。話すというより、むしろ、すこし喧嘩っぽく論判していた。わたしたちは大人のそういう雰囲気に影響されて、ふだんよりおとなしく庭で遊んでいた。すると、急にどっかからつよい羽音がきこえたと思うと、茶の間にいる母の、
「あらっ! 鳩! 鳩!」
という叫び声がきこえ、同時にすーっと軒さきをくぐるようにして、ほんとに白い鳩が家のなかからとび出して来た。
「鳩が入って来たのよ――鳩だったろう?」
いそいで、縁側に立って来た母が、息をはずまして、鳥のとび去ったこぶしの梢の方をみた。
あっけにとられた子供たちの目には、いきなり座敷へとびこんだ鳩よりも、縁側にかけ出して来て外を見た母のひどく動かされた表情が異様につよく写った。母はショックをうけ、とりみだしていたようだった。お化けはないもの、迷信はばかげたもの、と占いやまじないの話に子供の興味がひきつけられないようにしている母だのに、この白い鳩が座敷へ迷いこんで来て、偶然、神棚へとまって二三度羽ばたきし出て行ったということを、一つのいい前兆としてうけとった。