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とおのへ

遠野へ

水野 葉舟

水野葉舟『遠野へ』。同一底本的分册已合并为一书。收入:遠野へ、月見草、旅からのはがき、土淵村にての日記、北国の人、香油、帰途、黄昏。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 55,903 字 · 117 页

青空文庫

……こういう風の一種の神秘主義だ。烈しい、透明な信仰にはなっていないが、しかし、どこか心に根の張った感情で、いつも議論さえすれば、そこに落ちてしまう。それが、聞いていると、何となく薄暗い冷めたい空の下から、うつらうつらと南国の深碧の空にあこがれて、その花の色、緑葉の香に、心が引き寄せられているようでありながら、しかも、目には肌の氷のような、声の細い胸を射透すような、女怪の住んでいる、灰色の空、赭いろのくすんだ色をして、すっかり落葉してしまう森、すべて鈍色をして、上からおしつけようとしているものばかりが見える北国に生まれて、その冷めたい空気を吸って育った人だ。荻原はどこまで行っても空想の人だ。

気の毒なことに、とは思うが、或いはその嗜好から、特に選んだのか、荻原のいる室は西向きで、昼間でも薄っ暗い。その室には小さな書棚が、右の方の壁のところに置いてあって、それにくっ附けて、赤や紫で、しつっこい、ごちゃごちゃした模様の唐更紗の机掛けがかかった、中ぐらいな大きさの机が置いてある。机の上は筆立てやら硯やらで、狭くなっているが、その狭いところから、例の机掛けの花模様が毒々しく、この室に一種の光を放っているようだ。