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せんきょさつじんじけん

選挙殺人事件

坂口 安吾

「小説新潮 第七巻第八号」1953(昭和28)年6月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,782 字 · 28 页

青空文庫

でも、あんなに酔ったことはありません」

「なぜでしょう?」

「分りませんわ。選挙がいけないんじゃないですか。立候補なんてねえ」

「奥さんは立候補反対ですか。よそではそうではないようですが」

「それは当選なさるようなお宅は別ですわ。ウチは大金を使うだけのことですもの、バカバカしいわ。ヤケ酒のみのみ選挙にでるなんて変テコですわよ」

「ヤケ酒ですか、あれは?」

「そうでしょうよ。私だって、ヤケ酒が飲みたくなるわ」

「なぜ立候補したのでしょう?」

「それは私が知りたいのよ」

「なにか仰有ることはあるでしょう。特にヤケ酒に酔ッ払ッたりしたときには」

「絶対に云いませんよ。こうと心をきめたら、おとなしいに似合わず、何が何でもガンコなんですから。なにかワケがあるんでしょうが、私にも打ち開けてくれないのです」

奥方の声がうるんだ。しかし、寒吉にとってはバンザイだ。やっぱり何かあるのだ。奥方にもナイショの秘密。敗北せざるうちからのヤケ酒。これがクサくなければ、天下に怪しむべきものはないじゃないか。だが、功を急いではいけない。奥方は秘密を知らないのだから、いらざる聞きだしをあせらずに、まず奥方の心をとらえておくことだ。