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せんきょさつじんじけん
選挙殺人事件
「小説新潮 第七巻第八号」1953(昭和28)年6月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,782 字 · 28 页
他人の票を散らすために立てられる候補者もあるが、他人の票を奪うからには、それだけの顔も力もなければならぬ。三高吉太郎にはそれがない。せいぜい百票もとれれば上出来であろう。
「しかし、人間は理由のないことはやらない。たとえ狂人ですらも」
これはさる心理学の本に書かれていた文句であるが、まさに寒吉はそれを発止とばかりに思いだしたのである。
「ファッショかな」
顔に似合わぬキチガイじみた街の国士がいるものだ。それは彼がその演説をぶつまで、隣の人にも気がつかない場合がありうる。発作の時まで隣家の狂人が分らぬように。
ところが寒吉は折よく社の帰りに、駅前で彼の演説をきくことができた。それはまさに珍奇をきわめたものであった。
「ワタクシが三高吉太郎、三高吉太郎であります。(前後左右に挨拶する)よーくこの顔をごらん下さい。これが三高吉太郎でございます。(ヨー色男という者あり)イエ、ワタクシは色男ではございません。(ケンソンするなという者あり)ワタクシはよーく自分をわきまえておりますが、顔も頭もフツツカ者でございます。(人々ゲラゲラ笑う)たとえワタクシが代議士に当選いたしましても、日本の政局に変化はございません。