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せんきょさつじんじけん

選挙殺人事件

坂口 安吾

「小説新潮 第七巻第八号」1953(昭和28)年6月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,782 字 · 28 页

青空文庫

「ウソッパチ云いなさんな。ああ無情と云ってるだけじゃないか」

「放さないでくれ、ああ無情と云ってますよ」

と巨勢博士はニヤニヤ笑った。

「それが、どうしたのさ」

「自分のメモを思いだしてごらんよ。三高氏は手足をバタバタやりながら、放さないでくれと云ったのさ。その喚きは、ちょッと不合理でしょう。放してもらいたくない気持なら、しがみつく筈ですよ。ところが、手足をバタバタやって人の肩から外れたいような動作をしているのはナゼですか」

「オレの耳、オレの速記は正確そのものだ」

「ワタクシの耳、ワタクシの速記でしょう。紳士はふだんのタシナミを失ってはいけません」

「メモを返せ」

「あなたのメモは正確そのものですよ。ただ、音の解釈がちがったのです。手を放さないでくれの意味ではなくて、何かの秘密を話さないでくれ、アア無情、アア……こう解釈しなければならなかったのです」

寒吉はコン棒でブンなぐられたようにガク然としてしまった。思わず立ち上りかけると、巨勢博士はニヤリと制して、

「まだ早い。落ちついて。落ちついて。三高氏はそもそも選挙演説のヘキ頭から、自分がジャンバルジャンであることを語っているのです。