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いこん

遺恨

坂口 安吾

「娯楽世界 第二巻第五号」銀五書房、1948(昭和23)年5月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,706 字 · 22 页

青空文庫

パンパンをなぐれ。パンパンをなぐれ」

どういうわけだか、先生も、よく分らない。とりとめもなく、恐怖の影絵が走るばかりで、その映像の実体が、自分にも分らぬのである。喚くうちに、先生の気持は勇みたたずに、悲しくなり、切なさにたまらなくなるのであった。

「なぐってくれ! オレを。オレをなぐれ。オレをなぐれ。イタイ、イタイ、イタイヨ。ヒドイヨ」

先生がながらく学校を休んでいるので、大学生が心配して見舞いにきた。

医者にかゝらぬから分らぬけれども、先生はもう肺炎になっているのかも知れなかった。

学生達は先生のウワゴトをきいて、相談した。

「先生は安パンパンを買って、カゼをひいたんだぜ。あいつら、野天でやるからな。衛生にわるいよ」

「もう先生は死ぬらしいな」

と、一人がつぶやいた。三人はソッと目を見合せた。

一人が大人ぶった顔をして、落着いて言った。

「じゃア、うちのパンパンをつれてきてやるさ。パンパンの罪だからな。どのパンパンでも、おんなじだい。先生にあやまらせるんだ。なぐる、と云ったら、なぐらせてもいいじゃないか。思いをとげる、ということは、大切なんだ。オレは何かで読んだことがあるよ。