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いこん

遺恨

坂口 安吾

「娯楽世界 第二巻第五号」銀五書房、1948(昭和23)年5月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,706 字 · 22 页

青空文庫

すると叫びは、急に切なく調子が変るのであった。

「なぐってくれ! オレを! オレをなぐれ! オレをなぐれ! イタイヨ、イタイヨ、ヒドイヨ。ヒイ、ヒイ」

もうイタマシサに我慢のできなくなった学生の一人が、先生のフトンをはがして、

「先生、いますよ。パンパンをなぐって下さい。パンパンの罪ですよ。パンパンは先生にあやまりたいと言っていますよ」

先生のマブタはビクッとうごいて目をあいた。

「先生、わかりますか。先生にあやまるためにパンパンがきています。先生の御所望ならば、なぐられてもいゝと云っていますよ」

先生は再びビックリしたらしく、パンパンをさがして見廻した。元々先生はひどい近視で、おまけにメガネをかけていないせいもあってハッキリしたパンパンの像をとらえることができないようであった。

不幸なことがおこった。学生たちには分らなかったが、先生はパンパンを逃げた奥さんに思い違えたに相違ない。先生は手をさしのばして、虚空をさがした。苛々した顔は次第に悲しく沈んだ。

「オノレ、やっぱり、パンパンか」

先生の呻きは、沈痛であった。

学生は益々見るに堪えかねて、ソワソワした。