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いこん
遺恨
「娯楽世界 第二巻第五号」銀五書房、1948(昭和23)年5月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,706 字 · 22 页
一目散に逃げだすワケにも行かぬ。泣きだすワケにも行かないのである。六ツのきびしい視線に対して、返答しなければならないのである。
「オ代リを下さいませんか」
女たちは何だ、という軽蔑しきった顔をした。そして、今までよりもケタタマシク額を集めたり、やにわにノケゾッて哄笑したり、傍若無人のフルマイをはねちらすのだ。その一々が先生に対する軽蔑としか思われず、こんな思いをするぐらいなら、もう一生涯、料理屋の門をくゞるまい。自分はもう現代の落伍者なのだ、乞食も浮浪児も、配給なしに料理屋の料理を食って暮しているというのに、自分は一体、何者なのだろう。すべてに見すてられた、という激しい気持にならざるを得ないのである。
女は再びドンブリを投げすてゝ行った。その報復として、舌をかみ切って死んで見せることも出来ないばかりか、待ちかねたようにムサボリつく自分の姿のみすぼらしさに、先生は、堪りかねて涙ぐんだ。幸いコショーがきいてどっちの涙だか分らない様子になることができて、いくらか切なさをまぎらすことができたが、こんな羞しい思いをして再びイクラデスかなどゝ呼びかけるぐらいなら、食い逃げの悪党を気取って、黙って悠々と店を出て、泥棒と呼ぶ三人の女に襟首をつかまえられて、セセラ笑って――それから、どうなるか、どうなってもいゝ、それぐらい