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じゃしゅうもん

邪宗門

芥川 竜之介

「東京日日新聞」1918(大正7)年10~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 40,184 字 · 79 页

青空文庫

たほどでございます。でございますから、御家の集にも、若殿様の秀句や名歌が、今に沢山残って居りますが、中でも世上に評判が高かったのは、あの良秀が五趣生死の図を描いた竜蓋寺の仏事の節、二人の唐人の問答を御聞きになって、御詠みになった歌でございましょう。これはその時磬の模様に、八葉の蓮華を挟んで二羽の孔雀が鋳つけてあったのを、その唐人たちが眺めながら、「捨身惜花思」と云う一人の声の下から、もう一人が「打不立有鳥」と答えました――その意味合いが解せないので、そこに居合わせた人々が、とかくの詮議立てをして居りますと、それを御聞きになった若殿様が、御持ちになった扇の裏へさらさらと美しく書き流して、その人々のいる中へ御遣しになった歌でございます。

身をすてて花を惜しやと思ふらむ打てども

立たぬ鳥もありけり

三

大殿様と若殿様とは、かように万事がかけ離れていらっしゃいましたから、それだけまた御二方の御仲にも、そぐわない所があったようでございます。これにも世間にはとかくの噂がございまして、中には御親子で、同じ宮腹の女房を御争いになったからだなどと、申すものもございますが、元よりそのような莫迦げた事があろう筈はございません。