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ごうすけほうし
郷介法師
国枝 史郎
「ポケット」1925(大正14)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,163 字 · 21 页
六十余り七十にもなろうか、どこか気高い容貌をした老年の乞食が樓門の前で、さも長閑そうに居眠っていた。
そこへ通りかかった岡郷介は、何と思ったかツカツカと近寄り、
「お父様!」と呼びかけた。そうして地上へ跪座いた。
驚いたのは乞食であった。
「私は乞食でござります。お父様などとはとんでもない。何かのお間違いでござりましょう」
「いえいえ貴郎はお父様です。夢のお告げがござりました。……昨夜のことでございますが、神々しい老人が現われ出で、『汝明日光善寺へ参れ、そこに老年の乞食がいよう、それこそ汝が年頃尋ねる実の生の親であろうぞ』と、お告げ下されましてござります。……何と仰せられても貴郎は父上。どうでも邸へお迎え致し孝養を尽くさねばなりませぬ」
郷介はこう云うと飽迄真面目に乞食の手を取るのであった。
「どうも不思議だ。解せぬことだ」
乞食は苦々しく笑ったが、
「ところで貴郎のお姓名は?」
「岡郷介と申します」
「なに?」と乞食はそれを聞くと颯と顔色を変えたものである。
「岡郷介? しかと左様かな?」
「何しに偽りを申しましょう」
「……ああもう遁れぬ運命じゃ。……さあどこへでもお連れ下され。