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ごうすけほうし

郷介法師

国枝 史郎

「ポケット」1925(大正14)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,163 字 · 21 页

青空文庫

その夕方のことであるが、艶かしい十八九の乙女が一人、洵に上品な扮装をして、魚屋方へ訪れて来た。

「ご主人にお目にかかりとう存じます」

「ええ何人でございますな?」

「五万両頂戴に参りました」

「わっ」と云うと小僧手代は奥の方へ走り込んだが、それと引き違いに出て来たのは主人の魚屋利右衛門であった。

「お使いご苦労に存じます」

利右衛門は莞爾と笑ったが、

「先ずお寄りなさりませ」

「いえ少し急ぎます故……」

乙女は軽く否むのである。

「五万両の黄金は重うござるに、どうしてお持ちなされるな?」

「魚屋様は商人でのご名家、嘘偽りないお方、それゆえ現金は戴かずとも、必要の際にはいつなりとも用立て致すとお認し下されば、それでよろしゅうございます」

「それはそれはいと易いこと、では手形を差し上げましょう」

サラサラと一筆書き記すと、それを乙女へ手渡した。

「それでよろしゅうござるかな?」

「はい結構でございます。ではご免下さりませ」

「もうお帰りでございますかな?」

「はい失礼致します」

乙女は淑やかに腰をかがめると静かに店から戸外へ出たが、黄昏の往来を海の方へ急かず周章ず歩いて行く。