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とかいのなかのことう

都会の中の孤島

坂口 安吾

「小説新潮 第七巻第四号」1953(昭和28)年3月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,205 字 · 27 页

青空文庫

その晩に限らず、不景気のときは、運の悪いお客が他のお客のぶんを強いられるのはこの店の習慣的な商法であった。

グズ弁は暁方、目をさました。ノドが焼けるように乾いている。

昨晩はのみすぎたことを自然に思いだした。殆ど記憶しないぐらい飲みすぎてしまったのである。お客が大そう少かったし、その代りグズ弁がたんまり飲んでくれたので、十一時ごろにはもう店をしめて、グズ弁は屋根裏へあがった。すると、そのとき、誰かが来たのをグズ弁は思いだした。

もうカンバンにしたから、と下の婆さんがコトワリを云いにでたようだ。けれども、もつれているようなので、ミヤ子が立って、

「ちょッと見てくるわね」

「右平だな」

「ちがうでしょ」

「カンバンにしとけよ」

「ええ、そうするわ」

ミヤ子は屋根裏から降りた。まもなく下は静かになり、ミヤ子は戻ってきた。

右平ではなかったな、とグズ弁は思った。右平なら、金廻りがよいから、カンバンにしたあとでも、店をあけて飲ませる。泊りのお客を屋根裏へあげたあとでも、右平には飲ませるのが普通で、その間は屋根裏のお客は放ッぽらかしにされている。グズ弁はそういう扱いをうけたのが口惜しくて、自分もわざとカンバンすぎを狙ってムリを云ったら、やっぱり飲ませてくれた。