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とかいのなかのことう

都会の中の孤島

坂口 安吾

「小説新潮 第七巻第四号」1953(昭和28)年3月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,205 字 · 27 页

青空文庫

そういう一人の例として、たとえばこの物語の女主人公のミヤ子(彼女の孤島的な生活圏内に於てはミヤ公とよばれている)をとりあげてみよう。

彼女は東京の目貫き通りの一隅の一パイ飲み屋の女中であるが、新聞なぞは読んだことがない。彼女が目をさますのは正午ちかいころで、夕刊の第一版がそろそろではじめる時分であるから、自然朝刊はすでに古新聞で、彼女の生活は時間的に新聞とずれてもいるが、彼女が新聞を読まない理由はそのせいではなくて、単に興味がないせいだ。

新聞を読んでも自分に関係のある記事がでている筈はなく、そんなものを毎日キチンキチン読まないと生きてる気がしないような人々の生活の方が、彼女にとってはフシギに思われるぐらいであった。

新聞には彼女に関係のある記事がでる筈がないから、といま述べたけれども、彼女の場合に於ては実は案外そうではないかも知れぬ。

なるほどサラリーマンにとっては、やれ一万円ベースだの冷い戦争だのと、いかにも自分に密接な関係が有るようで無いような記事がでているけれども、めいめいの個人生活に直接の記事というものは一生に何度も見かけやしない。

ところがミヤ子の場合は、たとえば彼女の情夫たちの名前なぞがいつ新聞に現れてもフシギではないのだ。