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とかいのゆうき

都会の幽気

豊島 与志雄

「サンデー毎日」1924(大正13)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,559 字 · 21 页

青空文庫

私は走ることも立止ることも出来ず、重い足を無理やりに運ばせながら、叫ぼうとしても声は出ず、殆んど息もつけないで、ただ空の方を見あげたが、空は黒ずんで星影一つなく、遙の彼方に繁華な街路の灯が、不気味な薄赤い色を濁った大気に映していた。おう何という広々とした都会だろう! 何という不気味な混濁した都会だろう! 無数の人がうようよと重なり合って、種々雑多な行為を繰返して、何と息苦しく大気を濁らしてることだろう! そして今凡ての人が自分自身の巣の中に眠ってるこの夜中に、嘗てそれらの人の為した姿が、形体を離れた影の気となって、何と無数に迷い出してることだろう!

私は漸くにして下宿の前まで辿りつき、硝子戸を引開けて垂布をくぐって、慴え惑った眼付をほっとした気持ちで定めると、例の大きな掛時計が、悠長に長い振子を振っていた。それを見ると、もう自分の城廓の中に戻ったという気がして、安堵の吐息をつくことが出来た。

それまでは、まだよかったが……。或る日私は、妙に肌寒い薄曇りの午後三時半頃、朝からの球突に疲れて、懐手をしながら帰って来た。下宿まで二三十間ばかりの処へ来ると、その自分の下宿の門口に、ぼんやりつっ立ってる若い男の姿が見えた。