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とかいのゆうき
都会の幽気
豊島 与志雄
「サンデー毎日」1924(大正13)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,559 字 · 21 页
丁度五年前のやはり今時分、あの室で年若い学生が縊死を遂げた。大変勉強家のおとなしい静かな男だったが、高等学校の入学試験に失敗をして、この下宿から一年間予備校に通っていたが、翌年また失敗をして少し気が変になり、そこへまた不運なことには、この下宿にいた年増な女中からいつしか誘惑され、その女中が姙娠したことを知って、初心な気弱さの余り世を悲観して、遂に死を決したものらしい。故郷の両親へ宛てた遺書が一通見出されたけれど、ただ先立つ不孝を詫たばかりで、事情は少しも書いてなかった。その男が、床の間の上に机を踏台として、壁に火箸で穴をあけ、麻縄でぶら下って、私が夢に見た通りの死に方をしたのだった。それから半年ばかりの間、室は釘付にして誰も入れないことにしてあったが、何等変ったこともない上に、それでは却て人の注意を惹くものだから、落掛の木を新しく取り代え壁を塗り直して、やはり座敷に使うこととなった。私がはいる前に、二人ほどその室を借りた者があったけれど、何の怪しいことも起らなかったそうである。
話を聞くと、私はもう一刻もその室に戻ってゆくことが出来なかった。話を聞いてから夢をみるのなら兎に角、聞かない前に事実そっくりの夢をみたのだし、その幻がまざまざと見えたのだから、気の迷いとばかりはいえなかった。