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さけのついおく

酒の追憶

太宰 治

「地上」1948(昭和23)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,870 字 · 14 页

青空文庫

私は立って玄関に迎えた。

丸山君おひとりであった。

「もうひとりのおかたは?」

丸山君は微笑して、

「いや、それが、こいつなんです。」

と言って風呂敷から、トミイウイスキイの角瓶を一本取り出して、玄関の式台の上に載せた。洒落たひとだ、と私は感心した。その頃は、いや、いまでもそうだが、トミイウイスキイどころか、焼酎でさえめったに我々の力では入手出来なかったのである。

「それから、これはどうも、ケチくさい話なんですが、これを半分だけ、今夜二人で飲むという事にさせていただきたいんですけど。」

「あ、そう。」

半分は、よそへ持って行くんだろう。こんな高級のウイスキイなら、それは当然の事だ、と私はとっさに合点して、

「おい。」

と女房を呼び、

「何か瓶を持って来てくれないか。」

「いいえ、そうじゃないんです。」

と丸山君はあわて、

「半分は今夜ここで二人で飲んで、半分はお宅へ置いて行かせていただくつもりなんです。」

私は、丸山君をいよいよ洒落たひとだ、と唸るくらいに感服した。私たちなら、一升さげて友人の宅へ行ったら、それは友人と一緒にたいらげる事にきめてしまっていて、また友人のほうでも、それは当然の事と思っているのだ。