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しゅうぶん

醜聞

山本 周五郎

「小説新潮」新潮社、1964(昭和39)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,900 字 · 46 页

青空文庫

この家の庭には巨大な榎がある、むろんもう葉は散りつくして、小枝の先まで裸になっているであろう。その榎のあたりで、やかましく雀の群の鳴く声がしていた。――奥さまは身ごもっていらっしゃる、と今朝になって家扶の吉川甚左衛門が云った。およそみつきで躯も不調であり、自分の食がすすまないばかりでなく、食事の支度をするのも辛そうである。たぶんつわりのためだと思われるので、このところ自分の妻が食事ごしらえをしている。あなたは御用繁多のせいであろうが、いつもお疲れのようであり、少し痩せてさえこられた。一汁一菜の御家風もよいが、躰力が衰えたときには、精のつく食事をとるのが当然であろう。現に自分も腹痛と痢病のあと、躯を養うために食物を変えている。これらのことを考えて、もう少し奥さまにやさしく、また当分のあいだ食事のことは任せてもらいたい、と吉川はひらき直って云った。

「私も初めは信じかねました」と功兵衛は語り続けていた、「けれども、私の名をはっきり呼び、自分の名もなのったのです、それだけではありません、乞食にまでなりはてて、躯つきも面ざしも変ってはいますが、さくらに間違いのないことはすぐにわかりました」