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しゅうぶん

醜聞

山本 周五郎

「小説新潮」新潮社、1964(昭和39)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,900 字 · 46 页

青空文庫

病死と公表し、葬礼までおこなった当のさくらが、乞食になってあらわれたのだ。さくらになにか企みがあるとしても、これほど偶然に条件が揃うというのは、人間の意志のちからではなく、やはりもっと大きな、なにか眼に見えない力の支配によるものではないか。功兵衛はそう思って、背筋が寒くなるような感じにおそわれた。

「もしもそうなら、こんどは事をごまかしてはいけない」と彼は呟いた、「はっきりと正面からぶっつかってやろう」

そのときから、功兵衛の心には変化がおこったのだ。彼は栗饅頭を喰べたときの、苅田壮平のへつらい笑いや、哀願するような卑屈な表情が眼にうかぶと、それがさくらと共謀しているかのように思われ、烈しい個人的な憎悪さえ感じるようになった。

初めて雪が降った日の夕方、功兵衛はまたさくらと会った。雪のおそい年で、満願寺の桜に返り咲きの花がひらいたという、絶えてないことなので、来年の凶作の予兆か、それとも異常な災害でも起こるのではないか。そんな噂が城下町から農村のほうまで弘まっていた。城中でもそれが茶話に出、丙午の大火を思いだしたのだろう、町奉行では火の用心を例年よりきびしくするようにと、町人まちの五カ所の辻に高札を立てたりした。