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じゅうきちひょうりゅうきぶん

重吉漂流紀聞

久生 十蘭

「小説公園」1952(昭和27)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,456 字 · 52 页

青空文庫

作法の真似事をし、重吉に新年の祝儀を述べ、形ばかりの膳に向って御酒代りの水で盃をまわしはじめたが、水盃というのは不吉な時にかぎってするものだから、気を悪くしてものをいうものもない。盃はだん末座まで下り、とって十六になった飯炊の房次郎の番になると、盃を持ったままいきなりわっと泣きだした。今までこらえていたものもたまりかね、一度に声をあわせて泣きたてる。重吉は声を荒けて、

「昨日の約束を忘れたのか。下した船を東風に乗せて国へ上らせようという目出度い祝儀に、盃が下ったまま上らないのは縁起が悪い。房次郎よ、泣うのはやめて、早く盃をのぼらせないのか」

と叱りつけると、それでようやく盃が上ってきた。そこへ粥が出る。一人二椀ずつ食べる約束で、米を食うのを楽しみにしてみたものも、さて雑煮の代りに粥が出たのを見ると、心の中にさまざまな思いが湧き、たがいに愁い顔を見あわせるばかり、進んで箸をとろうとするものもなかった。皆の衆、どうしたことだと催促すると、うつむいてぼそぼそ食べだした。気の早いものは二椀とも啜りこんでしまったが、遅いものは、一椀も食べきれずに鼻汁を啜っている。