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じゅうきちひょうりゅうきぶん

重吉漂流紀聞

久生 十蘭

「小説公園」1952(昭和27)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,456 字 · 52 页

青空文庫

なるほど身の廻りのものが置いてある。さっきの二人はどこにいるのかとたずねると、部屋の隅の切穴のようなところを指して、この下にいるという。

のぞいて見ると、その下がまた部屋で、二段になった寝棚のようなものがあり、音七と半兵衛が落着かぬような顔で坐っていた。どういうわけで離れ離れにしてしまうのかといぶかったが、異国の船でも、船頭と水夫の扱いは別になっているのだろうと思い、おしてたずねるようなことはしないでおいた。

重吉はエベットが出て行くのを待ちかねて、切穴の口からのぞきおろし、

「音七ぬし、半兵衛ぬし、この船は長崎へ行く。国へ帰る日も近づいた」

というと、二人は浮かぬ顔で、

「そうだったらうれしいが、あまりうますぎて、真正のこととは思えない」とつぶやいた。

朝から気を揉んだせいか、咽喉が渇いてたまらない。水でも飲みたいと思っていると、昼刻になって、黒々として眼鼻もわからないような黒坊の子供が、小麦を蒸した切餅を一切れに鯨の脂身のようなものを添え、砂糖を入れた茶を持って来た。見る間にそれを飲み食いし、菓子はもう結構だから、早く粥でも出してくれと催促してみたが、皿茶碗をとり集めただけで行ってしまい、いつまで待っても音沙汰がない。