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じゅうきちひょうりゅうきぶん

重吉漂流紀聞

久生 十蘭

「小説公園」1952(昭和27)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,456 字 · 52 页

青空文庫

「いやいや、そんな軽いことではあるまい。見れば、涙をだしていられるが、胆のすわったお船頭が泣くというのはよくよくのこと。わたしらにも覚悟があるから、隠さずに本当のことを言ってもらいたい」

「隠しだてするところがあやしい。さあ、なにがあったのか言ってくれ。言わさずにはおかぬ」

と双方から問い詰める。

これほどの椿事になれば、いずれは自然に知れる。いつまでも隠しとおすことはできまいと思いかえし、ありようを話すと半兵衛は、

「波乗りのぐあいといい、偏揺のぐあいといい、大方、それと察していたが、するとこの船も舵を折ってしまったのか。情けない、情けない」

と手放しで泣きだした。音七は調子をはずした薄笑いをしながら、

「重吉ぬしのような厄病神が乗り移ってきたからには、どうせ、こんなことになるのだろう。それにしてもおぬしは、何艘船を沈めれば気がすむのか。殊更、この船にケチをつけ、大恩ある衆を海に沈めようというのは、あまりといえば横着すぎる」

と、つかぬことをいいだした。重吉は相手にならずにいると、音七は眼を吊りあげて、

「わからなければ、いって聞かせてやる。尾張の半可どものことは知らないが、伊豆の舟子の掟では、舟を沈めたおぼえのある船頭は、身を慎んで二度と船に上らぬことになっている。