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じゅうきちひょうりゅうきぶん

重吉漂流紀聞

久生 十蘭

「小説公園」1952(昭和27)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,456 字 · 52 页

青空文庫

それで船はエベットをつけて広東へ発たしてやり、ベケットはカムサッカにとまって、三人といっしょに越年することをきめ、港に向いた川尻の丸太小屋を借りてそこを春までの住居にした。

九月のはじめ、薩摩の漂流人が三人、カワンに送られて来た。船頭は喜三左衛門というひとで、薩摩の御廻米を積んで江戸に上る途中、大風にあって吹き流され、蝦夷の沖を半年ほど漂流しているうちに乗組の十三人が死に、船頭の弟の角次郎と水夫の左助三人だけが助けられたというような話だった。

その年も暮れ、翌、文化十三年の五月末にようやく港の氷が解けた。ベケットはロシア船を雇い入れて丸木舟を積み、ベケット、薩摩尾張の六人、水夫八人、奥蝦夷へ行く便船の者など合せて六十一人が乗組み、二十八日にカムサッカのカワンを出帆した。

六月十七日、越冬中、かねて脚気を患っていた半兵衛が死んだ。陸に埋めてやりたいにも寄せる港がない。船長のスレズニに頼んで死骸の足に石を括りつけ、ロシアの式で水葬してもらった。

六月二十八日、海上一里ばかりのむこうに地方が見えた。クナシリという島で港もあり、松前へも近いというのでそこへ上ることになった。