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じゅうびょうしつにっし
重病室日誌
北条 民雄
「文學界」1937(昭和12)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,745 字 · 14 页
それで自分も出かけてみる。
女たちは室の入り口に塊つて興奮した面持でささやき合ひ、男たちは室の中まで溢れ込んでゐる。手術室はまだ一度も見たことがなかつたので、こんな機会に見といてやれといふ気になつて中へ這入つて見る。
窒息した病人は頭を向うにむけて手術台の上に乗つてゐる。ちやうど一塊りのぼろぎれを乗せてあるやうにしか見えない。医者はまだ来てゐなかつたが、看護婦は既に二人来て、用意をととのへてゐる。色々な道具類が真白に輝いて、さすがに神経がここでは緊張する。無気味なといふよりも異常な美しさである。水をうつたやうに静かである。折角苦しんでゐるのに、咽頭に穴まであけて生かしてやるより、このままそつとうつちやつて置いた方が余程良いではないか、といふ考へが浮んで来る。しかし入口にひしめいてゐる男女の群は、興奮し眼の色を変へてこの女を生かさうと意志してゐるのだ。これはなんといふことだ。手術台の女自身も、咽喉に穴をあけるくらゐならこのまま死んだ方が良いと言つたさうではないか。そしてまさしく本望を果してゐるのだ。しかし人々はやつぱりこの女の意志の如何にかかはらず生かさうと意志してゐる。