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じゅうびょうしつにっし

重病室日誌

北条 民雄

「文學界」1937(昭和12)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,745 字 · 14 页

青空文庫

×月×日。

終日霖雨が降り、侘しい一日であつた。

朝、便所へ出かけて行き、廊下でぱつたり鮮人文さんに会ふ。ちよつとの間見ないうちに彼はもう盲目になつてゐる。

「前から山でもぶつかつて来るやうで歩けやしない。」

と言ひながら彼は空間を探り探り歩いて行つた。すぐ隣りの病室六号に彼は入室してゐるのださうだ。

昼頃隣りの李さんが枕許のけんどんからもうぼろぼろになつた職工手帳を取り出して、見ろと言ふ。見ると「××××部修理工場職工手帳――鋳工」と表紙に印刷してある。彼は、それを眺めてゐる私の方に向つて、ニヤリと得意気な微笑をもらした。今こそこんなになつてゐるが、これでも以前には健康な体で、しかも優秀な技術を持つてゐたのだ、と言ひたさうである。彼の現在はこの手帳にささへられてゐるのだ。

×月×日。

昨日からの雨がやまず、今日も午前中はしよぼしよぼと降り続ける。

夕方になつて雲が動き始め、空のところどころに青い穴があいて行く。その穴から傾き尽した太陽の光線が落ちて来る。

×月×日。

久々の上天気である。

左隣りの男が眼の手術をして来た。絶対安静とのことであるが、人々はわざわざ彼を笑はせるために下劣な話を始める。