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やこ

野狐

田中 英光

「知識人」1949(昭和24)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,615 字 · 39 页

青空文庫

翌日、私は集金の予定のある出版社に出かけていった。そこで都合が悪く、先づけ小切手を渡されると、私はそれを近くの、いつも迷惑ばかりかけている、ある出版社の社長に現金にかえて貰いにいった。そして酒を御馳走になってしまうと、桂子と約束の時間に帰れなくなった。その夜、彼女は勤めを休むとはいっていたが、私の帰りが遅いのに腹を立て、きっと勤め先に出かけたに違いない。

それで私は、ひとり多分、社長から貰ったに違いない一升瓶を抱え、本郷から自動車をとばし銀座に出た。彼女の勤め先は、西銀座の「うらら」という店である。

運転手に探して貰うとすぐ分った。これもやはり第三国人の経営だという、ビルの二階の大きな酒場だった。下にボーイが二、三人、白い制服で頑張っていて、怪しげな客は通さないようにしている。私は、本名で出ているという桂子の名前をいうと「ケイコさん」と呼ぶ、けたたましい指名で二階に通される。これが桂子のいう上品な酒場か。

青い照明の下で、鳴りひびくバンド。踊っている客と女給たち。ここに上ったら最後、最低三千円は取られるのを覚悟しなければならない。ところが桂子の話だと、どんな客でも鞄の中に五万から十万の金を持っており、少なくても一万円の金は使ってゆくという。