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やこ
野狐
田中 英光
「知識人」1949(昭和24)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,615 字 · 39 页
そして周囲にいつの間にか、多くの弥次馬。
「やア女の酔っ払いだ。みっともない」
「水をかぶせて、そこに寝かせておけば治ってしまうよ」
私は桂子がそんな風に醜悪で、みんなに侮辱されれば、されるほど、いとしくてならない。仕方がないからYさんの玄関にでも、ねかせて戴こうと頼みにゆくと、奥さんが手拭に金盥をもって出てこられ、桂子の顔や身体を一通り、綺麗にしてくれた。
桂子は幾らか正気づき、自分でフラフラ立上る。着物の前ははだけ、裾からは真黒な足袋跣足。通りがかりの少年が、「やあ、女のお化け」といったのをムキになって怒り、「この野郎」と絶叫しながら追いかけていった。私はその後ろ姿を眺め、彼女が幼女時代、農村でそんな風にお転婆だったろうと想像し、微笑してしまう。
私も少年時、鎌倉の農村に育ち、桂子のような少女たちに、しきりに好奇心と淡い恋情を感じたことがある。都会に出ていって、悪い病気をうつされ、まだ若くして死んでいった、そうした多くの娘たち。その娘たちに感じていた愛情が、桂子の上に爆発したのだ。
十六、七の頃、近くの老農に犯されようとしたり、医者の息子に追いかけ回されたという彼女。