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やこ

野狐

田中 英光

「知識人」1949(昭和24)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,615 字 · 39 页

青空文庫

男や金のことでも、時々、嘘をついていた。しかし彼女の嘘は、例えば幼女の嘘のようにすぐバレ易く、それだけ、妻の頑固な嘘よりは、私にとって可憐に思われた。妻は、肉体の喜びさえかくし勝ちなのだが、桂子はすべてが開けっぴろげのようで、私には可愛い女だった。

そこで私は、桂子と、夜昼なしの愛欲生活を送りながら、カストリ雑誌なぞにしきりに書きはじめた。そうした雑誌の編集者たちと飲みあかす晩も少なくなかった。生活の乱れに筆の荒れるのを感じるようになる。また金だけ送って疎開先におき放しになっている妻子、特に子供たちに良心的呵責も感じるようになる。更に共産党、人民の党と考えていたものを裏切ったと思う、苦痛もある。

私は眠れないまま、しきりに催眠剤を用いるようになった。はじめはカルモチンなら十錠、アドルムなら二錠で眠られたのが、しまいには、カルモチン五十錠から百錠の間、アドルム十錠ほど、一気にのまなければ眠られなくなった。それも飲むと眠たくなる代りに気持よい昂奮状態が訪れる。そして桂子との交合。その疲労を忘れるため、昼間もアドルムを飲んでは、原稿を書く。

私は前から酒好きで、その酒も強いほうだったが、催眠剤を連用しはじめると、酒だけではまるで酔えなくなった。