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ななこ

野菊の墓

伊藤 左千夫

伊藤左千夫『野菊の墓』。同一底本的分册已合并为一书。收入:奈々子、隣の嫁、春の潮。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 71,271 字 · 144 页

青空文庫

鶏もいつのまか降りて羽ばたきする。コウコウ牝鶏が鳴く。省作もいよいよ起きねばならんかなと、思ってると、

「なんだこら省作……省作……戸をあけられてしまってもまだ寝ているか。なんだくたぶれた、若いものが仕事にくたぶれたって朝寝をしてるもんがあるかい」

姉なんぞへの手前があるから、母はなお声はげしく言うのだ。

「そんなにお母さんはげしく起こさねたってすぐ起きますよ」

「すぐ起きますもねいもんだ。今時分までねてるもんがどこにある。困ったもんだな。そんなことでどこさ婿にいったって勤まりゃしねいや」

「また始まった。婿にいけば、婿にいった気にならあね」

「よけいな返答をこくわ」

つけつけと小言を言わるれば口答えをするものの、省作も母の苦心を知らないほど愚かではない。省作が気ままをすれば、それだけ母は家のものたちの手前をかねて心配するのである。慈愛のこもった母の小言には、省作もずるをきめていられない。

「仕事のやり始めはだれでも一度はそういうものだよ。何が病気なもんか。仕事着になって、からだが締まれば痛みはなくなるもんだ」

母はそういっても、どこか悪いところがあるかしらんと思ったらしく、省作の背へ回って見上げ見おろしたが、なるほど両手の肘と手くびが少し腫れてるようだけど、やっぱりくたぶれたに違いないという。