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ななこ

野菊の墓

伊藤 左千夫

伊藤左千夫『野菊の墓』。同一底本的分册已合并为一书。收入:奈々子、隣の嫁、春の潮。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 71,271 字 · 144 页

青空文庫

陰ながらも省作を見、省作の声を聞けば、おとよさんはいつでも胸の曇りが晴れるのだ。それがため到底だめと思ってる隣の家にうかうか半年を過ごしたのである。その年もようやく暮れて、十二月半ばごろに突如として省作の縁談が起こった。隣村某家へ婿養子になることにほぼ定まったのである。省作はおはまの手引きによって、一日おとよさんと某所に会し今までの関係を解決した。

お互いに心の底を話して見れば、いよいよ互いに敬愛の念がみなぎり返るのであるが、ままならぬ世のならいにそむき得ず、どうしても遠い他人にならねばならない。男同士ならばますます親密の交わりができるのに男女となるとそうはゆかない。実につまらない世の中だ。わが身心をわが思いに任せられないとは、人間というものは考えて見るとばかげきったものだ。結婚せねばならぬという理屈でよくは性根もわからぬ人と人為的に引き寄せられて、そうして自ら機械のごときものになっていねばならぬのが道徳というものならば、道徳は人間を絞め殺す道具だ。二人は互いに手をとって涙の糸をより合わせ、これからさき神の恵みに救われるような事があったらば、互いに持った涙の繩を結び合わせようと約束した。