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はまぎく

野菊の墓

伊藤 左千夫

伊藤左千夫『野菊の墓』。同一底本的分册已合并为一书。收入:浜菊、守の家。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,907 字 · 29 页

青空文庫

漸く細君が朝飯を運んでくれたが、お鉢という物の上に、平べったいしおぜのお膳、其に一切を乗せ来って、どうか御飯をという。細君は総てをそこに置いたまま去って終う、一口に云えば食客の待遇である。予はまさかに怒る訳にもゆかない、食わぬということも出来かねた。

予が食事の済んだ頃岡村はやってきた。岡村の顔を見れば、それほど憎らしい顔もして居らぬ。心あって人を疎ましくした様な風はして居らぬ。予は全く自分のひがみかとも迷う。岡村が平気な顔をして居れば、予は猶更平気な風をしていねばならぬ。こんな馬鹿げた事があるものか。

「君此靄※(「涯のつくり」、第3水準1-14-82)は一寸えいなア」

「ウン親父が五六日前に買ったのだ、何でも得意がっていたよ」

「未だ拝見しないものがあったら、君二三点見せ給えな」

「ウンあんまり振るったのもないけれど二つ三つ見せよか」

岡村は立つ。予は一刻も早く此に居る苦痛を脱したく思うのだが、今日昼前に渋川がくるかも知れないと思うままに、今暫くと思いながら、心にもない事を云ってる。こんな時に画幅など見たって何の興味があろう。岡村が持って来た清朝人の画を三幅程見たがつまらぬものばかりであった、頭から悪口も云えないで見ると、これも苦痛の一つで、見せろなど云わねばよかったと後悔する。