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のぎくのはか

野菊の墓

伊藤 左千夫

「ホトトギス」1906(明治39)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,539 字 · 67 页

青空文庫

民子は一町ほど先へ行ってから、気がついて振り返るや否や、あれッと叫んで駆け戻ってきた。

「民さんはそんなに戻ってきないッたって僕が行くものを……」

「まア政夫さんは何をしていたの。私びッくりして……まア綺麗な野菊、政夫さん、私に半分おくれッたら、私ほんとうに野菊が好き」

「僕はもとから野菊がだい好き。民さんも野菊が好き……」

「私なんでも野菊の生れ返りよ。野菊の花を見ると身振いの出るほど好もしいの。どうしてこんなかと、自分でも思う位」

「民さんはそんなに野菊が好き……道理でどうやら民さんは野菊のような人だ」

民子は分けてやった半分の野菊を顔に押しあてて嬉しがった。二人は歩きだす。

「政夫さん……私野菊の様だってどうしてですか」

「さアどうしてということはないけど、民さんは何がなし野菊の様な風だからさ」

「それで政夫さんは野菊が好きだって……」

「僕大好きさ」

民子はこれからはあなたが先になってと云いながら、自らは後になった。今の偶然に起った簡単な問答は、お互の胸に強く有意味に感じた。民子もそう思った事はその素振りで解る。ここまで話が迫ると、もうその先を言い出すことは出来ない。