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のぎくのはか
野菊の墓
伊藤 左千夫
「ホトトギス」1906(明治39)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,539 字 · 67 页
待つ人があるだっぺとか逢いたい人が待ちどおかっぺとか、当こすりを云ってお民さんを泣かせたりしてネ、お母さんにも何でもいろいろなこと言ったらしい、とうとう一昨日お昼前に帰してしまったのでさ。政夫さんが一昨日きたら逢われたんですよ。政夫さん、私はお民さんが可哀相で可哀相でならないだよ。何だってあなたが居なくなってからはまるで泣きの涙で日を暮らして居るんだもの、政夫さんに手紙をやりたいけれど、それがよく自分には出来ないから口惜しいと云ってネ。私の部屋へ三晩も硯と紙を持ってきては泣いて居ました。お民さんも始まりは私にも隠していたけれど、後には隠して居られなくなったのさ。私もお民さんのためにいくら泣いたか知れない……」
見ればお増はもうぽろぽろ涙をこぼしている。一体お増はごく人のよい親切な女で、僕と民子が目の前で仲好い風をすると、嫉妬心を起すけれど、もとより執念深い性でないから、民子が一人になれば民子と仲が好く、僕が一人になれば僕を大騒ぎするのである。
それからなおお増は、僕が居ない跡で民子が非常に母に叱られたことなどを話した。それは概略こうである。意地悪の嫂が何を言うても、母が民子を愛することは少しも変らないけれど、二つも年の多い民子を僕の嫁にすることはどうしてもいけぬと云うことになったらしく、それには嫂もいろいろ