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のぎくのはか

野菊の墓

伊藤 左千夫

「ホトトギス」1906(明治39)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,539 字 · 67 页

青空文庫

民子は狐鼠狐鼠と僕の所へ這入ってきて、小声で、私は内に居るのが一番面白いわと云ってニッコリ笑う。僕も何となし民子をばそんな所へやりたくなかった。

僕が三日置き四日置きに母の薬を取りに松戸へゆく。どうかすると帰りが晩くなる。民子は三度も四度も裏坂の上まで出て渡しの方を見ていたそうで、いつでも家中のものに冷かされる。民子は真面目になって、お母さんが心配して、見てお出で見てお出でというからだと云い訣をする。家の者は皆ひそひそ笑っているとの話であった。

そういう次第だから、作おんなのお増などは、無上と民子を小面憎がって、何かというと、

「民子さんは政夫さんとこへ許り行きたがる、隙さえあれば政夫さんにこびりついている」

などと頻りに云いはやしたらしく、隣のお仙や向うのお浜等までかれこれ噂をする。これを聞いてか嫂が母に注意したらしく、或日母は常になくむずかしい顔をして、二人を枕もとへ呼びつけ意味有り気な小言を云うた。

「男も女も十五六になればもはや児供ではない。お前等二人が余り仲が好過ぎるとて人がかれこれ云うそうじゃ。気をつけなくてはいけない。民子が年かさの癖によくない。