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のぎくのはか

野菊の墓

伊藤 左千夫

「ホトトギス」1906(明治39)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,539 字 · 67 页

青空文庫

母はもう半気違いだ。何しろここでは母の心を静めるのが第一とは思ったけれど、慰めようがない。僕だっていっそ気違いになってしまったらと思った位だから、母を慰めるほどの気力はない。そうこうしている内にようやく母も少し落着いてきて、また話し出した。

「政夫や、聞いてくれ。私はもう自分の悪党にあきれてしまった。何だってあんな非度いことを民子に言ったっけかしら。今更なんぼ悔いても仕方がないけど、私は政夫……民子にこう云ったんだ。政夫と夫婦にすることはこの母が不承知だからおまえは外へ嫁に往け。なるほど民子は私にそう云われて見れば自分の身を諦める外はない訣だ。どうしてあんな酷たらしいことを云ったのだろう。ああ可哀相な事をしてしまった。全く私が悪党を云うた為に民子は死んだ。お前はネ、明朝は夜が明けたら直ぐに往ってよオく民子の墓に参ってくれ。それでお母さんの悪かったことをよく詫びてくれ。ねイ政夫」

僕もようやく泣くことが出来た。たといどういう都合があったにせよ、いよいよ見込がなくなった時には逢わせてくれてもよかったろうに、死んでから知らせるとは随分非度い訣だ。民さんだって僕には逢いたかったろう。