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かわぐちこ

野菊の墓他六篇

伊藤 左千夫

伊藤左千夫『野菊の墓他六篇』。同一底本的分册已合并为一书。收入:河口湖、去年、紅黄録。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,105 字 · 61 页

青空文庫

「ヘイ晴れるとえいけしきでござります、残念じゃなあ、お富士山がちょっとでもめいるとえいが」

「じいさん、雨はだいじょぶだろうか」

「ヘイヘイ、耳がすこし遠いのでござります。ヘイあの西山の上がすこし明るうござりますで、たいていだいじょうぶでござりましょう。ヘイ、わしこの辺のことよう心得てますが、耳が遠うござりますので、じゅうぶんご案内ができないが残念でござります、ヘイ」

「鵜島へは何里あるかい」

「ヘイ、この海がはば一里、長さ三里でござります。そのちょうどまんなかに島があります。舟津から一里あまりでござります」

人里を離れてキィーキィーの櫓声がひときわ耳にたつ。舟津の森もぼうっと霧につつまれてしまった。忠実な老爺は予の身ぶりに注意しているとみえ、予が口を動かすと、すぐに推測をたくましくして案内をいうのである。おかしくもあるがすこぶる可憐に思われた。予がうしろをさすと、

「ヘイあの奥が河口でございます。つまらないところで、ヘイ。晴れてればよう見えますがヘイ」

舟のゆくはるかのさき湖水の北側に二、三軒の家が見えてきた。霧がほとんど山のすそまでおりてきて、わずかにつつみのこした渚に、ほのかに人里があるのである。