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きんごじゅうりょう

金五十両

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1947(昭和22)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,843 字 · 23 页

青空文庫

「失礼だが西へゆかれるか」

「……へまいります」

宗吉は相手の語気の鋭さに圧されて、我にもなく一歩うしろへさがった。武士は押冠せるように、

「膳所を通られるか」と訊いた。

「へえ、ぜ、膳所を、通ります」

「では頼まれて貰いたい」

相手はこう云ってふところから袱紗包を取出し、

「これに五十金ある、まことに相済まぬが、城下の中大手西ノ辻という処に藤巻中書という家がある、それへこの金子を届けて貰いたいのだ、源之丞よりと申せばわかる、頼むぞ」

こう云って金包を渡したかと思うと、こちらの返辞も待たずに向うへ走り去ってしまった。宗吉は本能的に後ろへ駆けだした、なにを考えたのでもない。侍の走り去るのを見たとたん、いきなり躯がそれとは反対のほうへ駆けだしていたのである。

……五十両、五十両という、言葉ならぬ言葉が頭いっぱいに響きわたり、むが夢中で四五丁あまり走った、息苦しくなって振返ったが、追って来る者もない、却って往来の人が訝しそうに眺めるので、ようやく彼は足を緩めた。

「巾着切とかごまの蠅とかいう奴だな」

宗吉は我知らずこう呟いた。

「みつかりそうになったんで預けたに違いない、……世間ばなしというのもまんざら嘘じゃあないんだな」