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くぎぬきとうきちとりものおぼえがき

釘抜藤吉捕物覚書

林 不忘

11 影人形

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,251 字 · 39 页

青空文庫

すぐに、多勢の手で、重い武右衛門の死体を運ぶらしく、騒がしい人声と物音が、障子のそとの廊下に起って、遠ざかって行った。

紋之助は、じっとそれに聞き入るように、耳を澄ましているふうだった。

高座から、花坊主の唄う浮世節の節廻しが、粋に、艶っぽく洩れて来ていた。

藤吉が、おこよを片隅へ、さし招いた。

二人は、人形舞台の向うに立って、低声だった。

「おめえさんは、師匠の何かね。」

「何と申して、」おこよは、意外な面持ちで、「三味でございます――。」

紋之助老人が、聞きつけて、

「三味だけじゃあねえんで。私の人形の片手でございますよ。紋之助の人形は、おこよの糸に乗ってこそ、はじめてお客様の御意を取り結びます、はい。」

「あら、そんなこと――。」

おこよは、初心らしく、顔を赧くして打ち消しながら、紋之助を見た眼を、藤吉へ返した。

「竹久の大師匠の芸でございますもの。あたしの三味は、邪魔をするだけ――。」

「おこよさん、」藤吉は、ちょっと改まった。「おいらあ、こんな厄介な探索は初めてだ。手も足も出ねえありさまだが、どうですい、あの武右衛門てえ野郎のことを、もそっと聞かしちゃあくれめえかの。